ひたすらに、著者の愛と物書きとしての技量に圧倒される本『Mr.children 道標の歌』

この本はこんな人におすすめ

・Mr.childrenをより詳しく知りたい人

・Mr,childrenにハマりたい人

・音楽評論の「パワー」を感じたい人

「この本を選んだ自分をほめてやりたい・・・」

めちゃくちゃに良い本を読んだとき、そう思うことがある。『Mr.children 道標の歌』(小貫信昭)という本を読んだ時もそうだった。読んだ本があまりにも素晴らしいと、もはや本の内容を論ずる以前に、自分が書店の中でその素晴らしい本を選択できた自体に喜びを感じてしまう。

この本は、ミスチルの「読むベストアルバム」として、楽曲を書き連ねながらミスチルの歩んできた四半世紀を振り返るものであり、ミスチルのボーカルの桜井が公式で帯コメントを書いている。

この本を読んでまず思うのが、「著者ミスチル好きすぎるだろ・・・」ということ。だって、冒頭からこんなんなんだもん。

『バンドを「作る」とは言わない。バンドは「組む」ものだ。大切なのは組み合わせ。Mr.childrenはその理想の形である。』(p6)

『Mr.childrenのメンバーは4人で力を合わせた作品という名の「化合物」を生み出すことができる。それは決して、個々の`我‘が勝った「混合物」ではない』(同)

このように、この本から伝わってくる筆者のミスチル愛はすさまじい。しかし、この本の真にすごいところは、著者がミスチル愛を噴出しながらも、きちんとした距離感を持ってミスチルを論じていることだ。著者のその潔さに、僕は感心させられた。

ファンの「感想」ではなく、あくまで評論として。わかりやすく、フラットな文体として、ミスチルが歩んできた奇跡が記述されている。文章のプロってやっぱりすごいんだなあと思いました(小並感)。

だって、ある対象に込める思いが強ければ強いほど、それの語り方、話の切り口を考えることは難しくなるでしょう。僕は、誰かに好きなものを語っていくうちに、好きな気持ちが爆発して、ついついファンの間でしかわからない用語を使ったり、「オタク特有の早口」になったりする。

正直、この本を読んだとき私はミスチルをまったく知らなかった。友人の勧めでアルバムを2、3個、さらっと聞いていた程度であり、失礼ながら歌える曲も数個しかなかった。

だから、ミスチルの楽曲を元にミスチルについて論じられても、その楽曲を聞いていないから文章を読んで「ああ、あれか!」みたいな風には全然ならなかった。

しかし、それでも人を惹きつけ、読ませる何かがこの本の文章にはあった。著者の熱意と分かりやすさが両立した語り口には、なんらかの「パワー」が込められていた。まるで、Mr.childrenの楽曲がある種の壮大さを抱えているかのように。

だから、この本に書かれている以下のエピソードを、僕はすっかり楽しい気分で読んだ。

・1990年にバンドブームが巻き起こったが、ミスチルは安易にプロデビューすることをしなかった。それは、流行に乗ったことでポッっとでのアーティストになることを避けるためだ。

・桜井が『CROSS ROAD』という楽曲を山中湖湖畔のスタジオで制作した際、おもむろに「遂に100万セールスする曲が出来た!」と叫んだ。(p39)

・名曲「終わりなき旅」の素晴らしさは、「転調」に現れている(p104)

告白すると、この本を読んでからというもの、僕はすっかりミスチルファンになってしまった。朝は『overture』~『蘇生』で目覚め、自炊中にはアルバム『重力と呼吸』を聞き、筋トレ中に『未完』を流してテンションを上げる生活を過ごしている。

そのくらい、この本の文章が持つ「パワー」はすさまじかった。

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コメント

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