村上春樹は、国民的作家である以前に、「走る作家」である。『走ることについて語る時に僕の語ること』

「走る作家」としての村上春樹

走ることは、僕がこれまでの人生の中で後天的に身に着けることになった数々の習慣の中では、おそらくもっとも有益であり大事な意味を持つ者であった。

p22

村上春樹は、国民的な作家である。

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』『IQ84』『ノルウェイの森』などなど、村上春樹は今まで、蛇口から水を出すように人気作品を世に出し続けている。

村上春樹は、国民的な作家である。それは多くの人が知る事実だろう。

しかし、僕はこれに少しだけつけ足したい。村上春樹は国民的作家であると同時に、「走る作家」なのだと。

村上春樹は、「走る作家」である。毎日一時間、平均10kmのランニングを30年以上も続けている。そんな村上春樹が、走ることについて語ったのがこの『走ることについて語る時に僕の語ること』だ。

人生の長い期間を走ることに費やした作家は、どのようなことを語るのだろうか。

走ることについて語る時に、村上春樹の語ること

村上春樹は、走ることと、自身の性格を関連づけて話す。彼は、走ることの実質を通じて、自身の性格を発見していく。

村上はまず、そもそも自分が走ることに向いている人間であることを淡々と語っていく。

僕がこうして二十年以上走り続けられているのは、結局のところ走ることが性に合っていたからだろう。人間というのは好きなことは自然に続けられるし、好きではないことは続けられないようにできている。

p70

走ることは性に合う、走ることは自分になんとなくハマる行為なのだと村上は述べる。

仰々しく強い言葉を使うのではなく、ただ滔々と、ゆっくりと自然な振る舞いで村上は走ることについて語っていくのだ。

村上は続けて、自身をチーム競技に向かない人間だと述べる。

自身には他人との競争が向いておらず、勝ち負けにこだわることはあまりなかったと村上は過去を振り返る。

何事によらず、他人に勝とうが負けようが、そんなに気にならない。

それよりは、自分自身の設定した基準をクリアできるかできないかーーそちらの方に関心が向く。

そういう意味で長距離走は、僕のメンタリティにぴたりとはまるスポーツだった。

p23

彼にとって走るということ「自分自身の設定した基準をクリアできるかどうか」であり、そこには他者との競争は介在しない。

また、村上は自分自身が小説を書く時も、「自分自身の設定した基準をクリアできるかどうか」を意識しているのだと述べる。

小説家という仕事に勝ち負けはない。創作者にとって、そのモチベーションは自らの中に静かに確実に存在する者であって、外部にかたちや基準を求めるべきではない

p25

村上春樹が走ることについて語ることの射程は、彼自身の人間的な性格だけでなく、1人の小説家としての仕事のやり方にまで及んでいるのだ。

彼はさらに、自身の創造性の源泉も、走ることにあるのだと述べる。

この本では、長編小説を書くという作業が多大なエネルギーを使うということが何度も強調されている。

自らの創作活動に何かエネルギーを「持っていかれる」と感じている村上春樹は、文学で成功をおさめるために必要なものとして「若いうちから自前で作り上げた筋力」を上げている、

ここでの「筋力」は文学的な素養を培うという意味でもちろん比喩なのだが、村上の語り口ではそれはフィジカルな筋力とパラレルであると僕は感じた。

僕自身について言わせていただければ「基礎体力」の強化は、より大柄な創造に向かうためには欠くことのできないものごとのひとつだと考えているし、それはやるだけの価値のあることだ(少なくともやらないよりはやった方がずっといい)と信じている

p149

書くことと、走ること、あるいは村上春樹として生きること、村上春樹の中では、それらが一貫したテーマとして通底しているのだと感じた。

この本から考えたこと

僕がこの本から得た教訓は、「習慣は無理せず、自足的に作り上げるのが良い」ということである。

僕がこの本の中で好きな部分はここだ。

僕がこうして二十年以上走り続けられているのは、結局のところ走ることが性に合っていたからだろう。人間というのは好きなことは自然に続けられるし、好きではないことは続けられないようにできている。

p70

よくビジネス書とかなんかでは、何かを習慣化する際に「目標をはっきりさせる」だとか「動機を強く持つ」とかそういうガツガツとした心構えでいるべきだという主張が見られる。

けれど、村上の本を読んでも、そういったガツガツとした走ることについての熱い思いは見られない。

好きだから、続ける。性に合うから、なんとなく走る。

そういうゆるい感じで習慣を作ることの方が、案外大事なんじゃないかなあと思った。

「健康のために」「体力づくりのために」「生活サイクルを整えるために」走るのではなく、走りたいから走るっていうのが大事なんじゃないかなあと。

つまり、目的を「〜のために」と行為の外部に置くのではなくて、自己目的化する。自足的にやることが、続ける上では大事だということだ。

僕が今やってるブログも「収益化のために」「将来のポートフォリオのために」「アウトプットのために」と色々目的はあるけど、ただブログを書きたいから書くって言う気持ちも大事にしてきたいなあと思った。

だから僕がこの本から得た教訓は、「習慣は無理せず、自足的に作り上げるのが良い」ということである。

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