初音ミクの創作活動を支えるクリエイティブな環境についての一考察(昔の期末レポート)

雑談

こんにちは、各駅停車です。期末レポートで成績が決まる授業だけ取ってたら、あと2週間でレポート8本を書き上げないといけないというとんでもない状況になってしまいました。

ブログの手を抜きたいので、今日は、僕が一年生の時に書いたレポートをはっつけたいと思います。コピペする人はいないと思うけど、コピペしないでね…

初音ミクの創作活動が盛んなのは、ネットやリアルで展開されている環境がうまく機能しているからなんじゃないか、みたいなことを書いています。6700字ぐらいあります。では、どうぞ。

初音ミクの創作活動を支えるクリエイティブな環境についての一考察

1.序論

筆者は夏休み、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(柴那典,2014,太田出版)という本を読んだ。この本は初音ミクのヒットの理由、そして初音ミクを巡る歴史について広く概観する本である。

筆者はこの本の中にたびたび登場する、ある言葉に衝撃を受けた。

それは「遊び場」という言葉だ。この言葉を筆者なりに解釈すると、「遊び場」とは、クリエイターたちが自由に創造性を働かせ、創作活動を行うことのできる環境のようなものを指す言葉である。

「初音ミク」という熱狂的なムーブメントの過程には、いつもクリエイターが自由に何かを表現することのできる「遊び場」が意識されていた。

そして筆者は、「遊び場」、つまりクリエイターに初音ミクを使った創作活動を促す「環境」はどういうあり方をしているのかについて、「環境」が初音ミクの創作活動にどのような影響を与えているのかについて、調べたいと思った。

では、筆者は初音ミクを巡る「環境」について、どのような観点から語るべきだろうか?

筆者は、初音ミクを巡る「環境」について語る際に、初音ミクを作った会社である「クリプトンフューチャーメディア」を議論の軸として取り上げるべきだと考えている。

クリプトンフューチャーメディアは、1995年、札幌で生まれた会社である。起業当時は音声素材をサンプリング・販売する会社であった。2004年にボーカロイドソフト「MEIKO」を発表すると、ボーカロイド事業に積極的に参入していくようになり、2007年に初音ミクを生み出すことになる。

現在、クリプトンフューチャーメディアは音声サンプリング、「初音ミク」を中心としたキャラクタービジネス、自社の音楽レーベル「KARENT」の運営、北海道の魅力を伝えるウェブメディア「Domingo」の運営と手広く事業を展開している。

筆者が、初音ミクを巡る「環境」について語る際に、クリプトンフューチャーメディアを議論の軸として取り上げる理由は、クリプトンフューチャーメディアが常に初音ミクを巡る「環境」を意識しながらその事業を行っていたからである。

例えば、『美術手帳 2013年6月号』の「特集 初音ミク」に収録されているインタビュー記事では、初音ミクヒットの中心となった動画投稿サイト「ニコニコ動画」に始まり、初音ミクの創作活動を促進するサイト「piapro」、自作の絵を投稿することで交流するサイト「pixiv」、各種SNS(twitter/Facebook)等、初音ミクを巡る様々な「環境」についての言及がなされている。

初音ミクを生み出した会社であるクリプトンフューチャーメディアは、誰よりも初音ミクを巡る「環境」を意識していた。そしてそのことが、「ボーカロイド現象」とも形容された初音ミクの大ヒットに繋がっていったと考える。

では、ここから筆者はクリプトンフューチャーメディアを取り挙げて、初音ミクを巡る「環境」について語っていこう。

議論の流れを説明する。

まず2-1では、初音ミクについて筆者の持つ知識を共有する。

続く2-2では、クリプトンフューチャーメディアが運営する、創作活動を支援する「環境」、「piapro」について考える。初音ミクの創作の輪を広げた、代表的なインターネット上の「環境」を記述する。

そして2-3では、クリプトンフューチャーメディアが本社を構える札幌という「環境」について考えていく。クリプトンフューチャーメディアは、初音ミクの情報の出発点であるリアルな「環境」、札幌をどのように見ているのかをまとめていく。

以上の流れで、初音ミクの創作活動を「環境」はどのようなあり方をしているのか、どのような役割を果たしているのかを考えていこうと思う。

2-1 初音ミクについて

この項では、初音ミクについて、議論の前提となる知識を確認していきたいと思う。

2007年8月31日、初音ミクは音声合成ソフトウェア、つまりパソコン上で歌を歌うことのできるソフトである「VOCALOID」の商品として誕生した。

名前の由来は「まだ見ぬ未来から初めての音がやってくる」。

パソコン上で歌声を作るという目新しさを押し出していた従来の「VOCALOID」と比べ、「キャラクター」を前面に押し出した初音ミクは、本来のターゲット層であるDTM(デスクトップミュージック)界隈を超えた、大ヒット商品となった。

年間に1000本売れればヒット商品になるDTM界隈の中で、初音ミクは1か月で1万5000本の売り上げを見せた。

発売して間もなく、インターネット上の動画共有サイト、「ニコニコ動画」では、彼女が歌う曲が投稿されていく。その勢いは目まぐるしいものであった。

ボーカロイドの開発を担当していたヤマハの剣持秀紀氏は、初音ミクが発売した直後のニコニコ動画の勢いについて、こう語っている。

「ソフトウェアの仕組みを提供した側として、発売直後にニコニコ動画に上がってくる動画は全部フォローしようと思っていました。

でも、2週間くらいで追いつかなくなった。(中略)2007年の9月の頃は、一週間経つと状況が全然変わっているような、目まぐるしい時期でした。」(『初音ミクはなぜ世界をかえたのか?』p131)

このように、ニコニコ動画を中心に爆発的に広まった初音ミクは、クリエイターたちの自発的な創作に支えられながら、その存在感を高めていった。

クリエイターの気持ちを託すシンガーとして、あるいは可愛らしいキャラクターとして、初音ミクは楽曲/絵/3Dモデル/テキストと様々な表現媒体で広まっていく。

そこにはニコニコ動画/piapro/pixiv/youtube/SNSといった初音ミクが広がっていく「環境」も重要な役割を果たした。

発売からさらに時間がたつと、初音ミクの活躍は、日本を、ネットの世界を超えていく。2011年にはgooglechroamのCM(https://www.youtube.com/watch?v=MGt25mv4-2Q)に登場し、2013年にはパリの本格的なオペラの舞台で初音ミクを主役としたオペラ(https://www.youtube.com/watch?v=UUxxYVbDxw0)が上演されるに至った。

また、2015年には日本武道館で2万人を動員するライブを行った。

現在、初音ミクは、発売してから数年ほどの熱狂的な勢いは持っていない。しかし、それは初音ミクとそれを巡る創作活動が停滞したことを意味しない。

むしろ、カラオケで歌われる曲の上位に初音ミクをはじめとしたVOCALOIDの曲が入っていたり、初音ミクに関連するイベントが毎年のように開かれているところから見て取れるように、初音ミクのムーブメントが成熟したことで、初音ミクがある種ひとつの「文化(カルチャー)」として定着したことを意味するのだと筆者は考えている。

以上、駆け足で初音ミクの歴史をなぞってきた。なるべく初音ミクを知らない人にもわかりやすく書いたつもりだが、説明不足であることは否めない。とりあえず、議論を進めるうえで筆者が共有しておきたい点を以下にまとめた。

・初音ミクとは、パソコン上で歌声を作成することのできるソフト、「VOCALOID」のキャラクターである。

・piapro/pixiv/youtube/SNS、そしてニコニコ動画といった、クリエイターたちが創造性を働かせることのできる「環境」が、初音ミクの自由な創作活動を促進した。

・最盛期にはgoogleのCMやパリでのオペラといったように世界中で受容された初音ミクは、かつてほどの勢いはないものの、現在日本を中心に一つの文化として受容されている。

以下、これらの点を引き継いで議論を進めていく。

2-2 「piapro」という「環境」

この項では、初音ミクの創作活動を巡る「環境」、とりわけインターネット上の「環境」の代表例となる「piapro」について記述していく。

「piapro」は、クリプトンフューチャーメディアの運営するコンテンツ投稿サイトである。「piapro」上にあるコンテンツは「オンガク」/「イラスト」/「テキスト」/「3Dモデル」とジャンル分けされており、ユーザーはそれぞれのジャンルで初音ミクを初めとしたボーカロイドたちの創作作品を投稿することができる。

しかし、「piapro」というサイトの持つ機能はそれだけではない。「piapro」は、初音ミクの創作活動を促進する「環境」として、ある特徴的な機能を備えている。

その機能とは、ユーザー同士が投稿したコンテンツをコラボレーションさせ、創作作品を新しく作り出せる機能である。例えば、「オンガク」のカテゴリーで投稿された初音ミクの作品に、誰かがその曲をイメージした「イラスト」をコラボさせる。

さらに、「イラスト」と「オンガク」の組み合わせから独自の物語を「テキスト」として紡ぎだすユーザーが現れる。このように、「piapro」はコラボレーション機能を備えることによって、ユーザーたちの創作の連鎖を起こしやすくしている。

ユーザーたちが、自由に初音ミクのコンテンツを投稿し、それらをコラボレーションさせる。「piapro」は初音ミクの創作活動全体を象徴するような「環境」であると言える。

では、クリプトンフューチャーメディアはこの「piapro」という「環境」をどのように生み出し、整備していったのだろうか?その軌跡を辿っていこう。

「piapro」が生み出されたのは初音ミクが誕生した2007年8月31日からおよそ3か月後の、2007年12月3日のことだった。「piapro」が誕生した理由は、クリプトンフューチャーメディアが、創作活動を行う「場」を提供するためであった。

初音ミクが発売してから、クリプトンフューチャーメディアにはユーザーたちから「自分たちの創作活動はどこまで行ってよいのか」「初音ミクの著作権は大丈夫なのか」といった権利関係の問い合わせが殺到した。

通常の著作権法では、ある創作物の二次創作を行う際には、元の著作物の権利者に確認する必要があるからである。その事態に対処するために、クリプトンフューチャーメディアがの社長、伊藤博之(ひろゆき)は創作を支援するサイトの「piapro」と、「キャラクター利用のガイドライン」を定めた。

伊藤はその当時を振り返ってこう述べている。

「まず、僕らがしなきゃいけないなと思ったのは、ルールとマナーの整備何ですね。2007年の8月31日以降に起きたこのビックバンが、次の時代に起こる様々なことへのリファレンスになる気がした。

(中略)著作権的に問題があると言っていろんな二次創作物を一網打尽にすることもできた。『二次創作はやめてください』と言うこともできた。

でも、そんなことをしても未来に繋がらない。むしろ、創作を委縮させることなく、この爆発を維持し、もっと発展させるためにはどうすればいいか。そっちの方向で発想をしたわけです。」(柴那典,2014,『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』p138-139)

クリプトンフューチャーメディアの提示した「キャラクター利用のガイドライン」は、初音ミクを中心としたボーカロイドの二次創作物を、非営利目的に投稿するものを許可するものであった。

著作権を固く守るのではなく、ユーザーの自由な投稿をむしろ促進する画策を、クリプトンフューチャーメディアは「piapro」と「キャラクター利用のガイドライン」を用いて行った。

クリプトンフューチャーメディアは、その後「キャラクター利用のガイドライン」を発展させ、2009年6月4日に「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」を公表する。

これは「非営利で対価を伴わないこと」「公序良俗に反しないこと」「他者の権利を侵害しないこと」を条件に初音ミクの創作活動を認めるという、初音ミクの利用範囲を示したものである。

個々の創作物を対象にするのではなく、また、明確に禁止事項を列挙していくわけでもなく、あくまでガイドラインとして抽象的に創作活動の範囲を決めることで、クリプトンフューチャーメディアはユーザーの創作意欲を最大限に促進することに成功した。

このように、「piapro」はインターネット上の「環境」として、今現在でもも初音ミクの創作活動を支えている。

2-3 札幌という「環境」

前項では、初音ミクの創作活動を巡るインターネット上の「環境」として、「piapro」を扱った。続く本項では、インターネットから離れて、リアルな「環境」である札幌について語っていく。

私が初音ミクの創作活動を支える「環境」として、札幌に着目したのには理由がある。それは、筆者から見てクリプトンフューチャーメディアが、札幌にこだわっているように感じたからである。

筆者の出身である東京には、秋葉原を初めとして、新宿、中野、池袋、渋谷、上野といった、キャラクター文化/サブカルチャーが栄えている都市がある。

キャラクター文化を受容する人々の母数が多いこと、流通/生産の利便性、そして新しい文化が真っ先に発信される場所として、東京はキャラクタービジネスを行うのに最も適した場所だと筆者は考える。

それゆえ、初音ミクを用いてキャラクタービジネスを展開するクリプトンフューチャーメディアも、本来ならば東京に拠点を構えることになってもいいはずである。

しかしながら、クリプトンフューチャーメディアは初音ミクで成功したのちも、依然札幌で事業を行っている。なぜ、クリプトンフューチャーメディアは札幌に拠点を構えるのか?そこにはクリプトンフューチャーメディアの創作活動を巡る「環境」に対する意識が隠れているのではないか?

では、ここからはクリプトンフューチャーメディアが札幌に拠点を構える理由を探っていこう。

調べた結果、クリプトンフューチャーメディアが札幌に拠点を構える理理由は、大きく分けて2つあることが分かった。

第一の理由として、札幌にはデジタル素材を販売するクリプトンフューチャーメディアが、地理的に経営しやすいという企業的な理由がある。

札幌市立大学の阿部裕貴は、次のように述べている。

「札幌にはデジタルコンテンツにおける『素材産業』を担う企業が多く存在している。

初音ミクの開発・販売元であるクリプトン・フューチャー・メディアはもともと音源素材を販売する企業であり、『写真』『音』『映像』などの素材を顧客のニーズに合わせて提供する株式会社データクラフトは札幌に本社を置いている。

また、札幌テレビハウスはさまざまな映像素材を全国のテレビ局や映像制作会社に向け発信している」(阿部裕貴,2011,『初音ミク革命 とある大学生の一考察』)

札幌はデジタル素材を販売する企業が多数存在し、いわばデジタル素材の産地となっている。クリプトンフューチャーメディアが札幌に拠点を構える理由の一つ目は、デジタル素材を売る会社としての、その地理的利便性であった。

第二の理由として、社長の伊藤博之が札幌に強い思いを抱いていることが挙げられる。

北海道の田舎で生まれ、会社を立ち上げる前には札幌を拠点とするアマチュアミュージシャンと北海道大学の職員という二足のわらじを履いていた伊藤は、札幌に強い地元志向を持っている。伊藤は、アーティストの村上隆(たかし)との対談でこのように語っている。

「僕は札幌にこだわっているというよりも、東京に負けたくないんです。

東京に行くくらいなら、札幌で外国の人とビジネスがしたい。今ってメディアもプロダクションもなんでも東京にあって不自然ですよね。どの土地にも面白いやつはいるはずなのに、世の中に出てくるものは全部東京産で、そこで何か起これば一瞬で崩壊する恐ろしさがある。」(『美術手帳』2013年6月号「総特集 初音ミク」p97

東京から離れて、事業を行う伊藤は、その強い地元志向から札幌を盛り上げようとしていることが分かった。

以上、クリプトンフューチャーメディアが札幌に拠点を構える理由を述べてきた。札幌がデジタル素材の産地であり、社長の伊藤が札幌を盛り上げようとしていることが、その原因であった。

毎年「さっぽろ雪まつり」において初音ミクの雪像が制作されていたり、初音ミクがラッピングされた市電が市内を走っていたりと、札幌という「環境」が初音ミクに与える影響は大きい。

インターネット上で大きく活躍する初音ミクだが、その活動の下地には、確実に札幌という現実の「環境」が存在している。

3.結論

本項では、初音ミクの創作活動を巡る「環境」、初音ミクの創作活動を促進する「遊び場」について言及してきた。筆者の紹介した「piapro」や札幌といった「環境」の他にも、初音ミクの創作活動を支える「環境」は多数存在する。

その誕生から14年がたっても、日々楽曲やイラストの作品が投稿され続ける初音ミクというキャラクターは、最も成功したキャラクターの一つと言っても差し支えないだろう。その成功には、クリプトンフューチャーメディアの「環境」を意識した様々な画策が、確実に影響を与えていると筆者は考えている。

参考文献

阿部裕貴,2011,『初音ミク革命 とある大学生の一考察』,千葉北図書

柴那典,2014,『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』,太田出版

2013,『美術手帳』2013年6月号「総特集 初音ミク」,美術出版社

Webページ

GoogleChromeJapan,2011,「Google Chrome:Hatsune Miku(初音ミク)」 (2022年2月5日取得 https://www.youtube.com/watch?v=MGt25mv4-2Q)

HatsuneMiku,2013,「【渋谷慶一郎・初音ミク】オペラ「THE END」【VOCALIOD OPERA】」(2022年2月5日取得 https://www.youtube.com/watch?v=UUxxYVbDxw0)

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コメント

  1. […] こんにちは、各駅停車です。期末レポートがきついので、前回の記事と同様に、今回も1年生の時書いた期末レポートを貼り付けて、ブログの手を抜こうと思います。 […]

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