
こんにちは、現役文系北大生の各駅停車です。
今回は、角田光代の小説、『キッドナップツアー』を紹介したいと思います。
『キッドナップツアー』について
『キッドナップツアー』は角田光代によって2003年に発表された小説です。
物語は、小学五年生の女の子ハルが、訳あって妻と別居中のお父さんに誘拐(キッドナップ)されるところから始まります。
最初はお父さんを嫌がり家に帰りたがるハルでしたが、時間が進んでいくにつれ、次第に父親との旅を楽しんでいくようになります。
海水浴や、肝試し、キャンプなどをやりながら、ハルは父親との夏休みを過ごしていくのです。
この作品は「親と子の家族愛」を扱ったありがちな作品ではありません。
それよりもむしろ、2人の人間がぎこちないながらも歩み寄っていく、親子に限定されない普遍的な人間関係を扱っているのだと、僕は思います。
そういう意味では、なんとなく、『ペーパームーン』という映画に似ているような気もします。
『ペーパームーン』について
僕の気に入ったところ
ここからは、僕の気に入ったところを2つ紹介します。
「好き、とかきらい、というのは、毎日会っている人だから言えることなんだと気づいた。
おとうさんのことが好きなのかきらいなのか、私はじぶんでわからなくなっていった。」
別居中のため、父親とはなかなか合えない主人公のハル。夏休みに父親と久しぶりに再会した時、ハルはむず痒さを覚えます。
たしかに、好きとか嫌いとか、そういった具体的な感情というのは、定期的に顔を合わせている人に対してでないとなかなか沸きにくいものです。
ハルは、肉親であるのにも関わらず、父親に好きや嫌いといった感情を持てない自分を、ある意味この言葉によって肯定しているのかもしれません。
僕は、ハルのその考えに心を動かされました。
「ほかにすることがないので、色あせたカーテンを開けたり閉めたり、冷蔵庫を開けたり閉めたり、崩れ落ちそうなそなえつけのたんすを開けたり閉めたり、
つまり部屋の中で開けたり閉めたりできるものはみんなそうしてその向こうを確かめた」
父親に旅館に連れていかれるも、手持ち無沙汰になって部屋を観察するハル。この部分を見て、なんだか突然昔の記憶が蘇ってきました。
子供の頃、親に連れられて外出すると、ふとしたときに空いた時間が生まれます。
その時、僕は何もせずただ『キッドナップツアー』のハルのようにボーッとしていたり、特に意味のない動きをしていました。
そういう時間というのは、誰かに連れられて、その中で暇になる時間というのは、今となってはなかなか手に入れることができないんだなあと思いました。
成長すれば、仮に外出中に空いた時間ができたとしても、本を読んだり、スマホをいじったりと、なにかやるべきことを勝手に見つけてしまうでしょう。
だから、ハルの、何をするわけでもない時間の潰し方を見て、うまく言えないのですがハッと気付かされた気持ちになりました。
以上、『キッドナップツアー』について紹介してきました。夏に読みたくなる、良い小説です。
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