自分の中に「もう一つの国」を立ち上げるための映画読本『若き日の映画本』

ある一本の映画を見たことで人生が変わったという経験は、全ての人ではないにせよ、一定数の人が持っている経験であると思う。

『若き日の映画本』は、そんな一本の映画に人生を変えられた経験をした人々が、それぞれの思いを携えて、映画について語っていく本である。

札幌市のミニシアターである「シアターキノ」が、30周年を記念して出版したこの本。

シアターキノについて

シアターキノ、30年愛される映画館づくりのために

ホウシャオシェン、是枝祐和、岩井俊二、谷川俊太郎、宇野常寛などの映画監督、俳優、詩人、評論家計41人が、「若い世代に向けた映画」をテーマに、一人一つずつ映画を紹介していく。

それぞれ経歴の異なる41人の語り口は、三者三様だ。しかし、41人の中に共通してあるのは、それぞれの人生の中で、一本の映画が特別な意味を持って存在していることだと思う。

彼らが紹介する一本の映画を通じて見えてくるのは、その映画を見て過ごし、いろいろなことを感じていた、彼ら自身の若者時代の在り方である。

ある人は浪人中に、ある人は中学時代に、ある人は30代になってから…素晴らしい映画との出会いが、この本の中には収集されている。

シアターキノのオーナーである中島氏は、この本を若者が「もう一つの国」を作るきっかけ作りにしてほしいと述べている。

「もう一つの国」とは、映画や小説などの創作作品を通じて、自分の中に確立される精神的な自分の核のことである。中島氏は教育学者である斎藤次郎の書いた『若き日の読書』にインスパイアされながら、この言葉を用いていく。

各映画評の合間の挿話を読んでいくにつれ、中島氏自身も若い時代に「もう一つの国」を作り上げていったことが分かる。カフカやカミュ、リルケ、梶井基次郎などの文学作品、日本ATGやゴダール映画をひたすらに吸収した高校、大学時代が、彼にとって強烈な時期であったことが明らかにされている。

映画を見る事、文学を読むことを大学生のうちにもっとやりたい。僕は、この本を読んで素直にそう思った。

映画を見た時の、いい文章に会った時の、ぞわぞわした感触が癖になって将来のつぶしが利かなそうな文学部に来てしまった僕にとって、この本は学生活の中で、今後読む本が、見る映画がきっと自分の軸になるという確信を芽生えさせるのに十分な効力を持っている。

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