シアターキノ、30年愛される映画館づくりのために

雑談

2022年6月29日に、札幌市図書館・情報館1階サロンにて行われた講演イベント『シアターキノ×seesaw Booksクロストーク まちの文化は「場」づくりから』に参加した。

札幌のミニシアターとして、1992年に開館したシアターキノは、2022年7月4日で開館30周年を迎える。今回のトークイベントも、その30周年を祝す場(という名目の元、シアターキノが30周年記念に出す映画本の宣伝を行う場所)として開催された。

この記事では、シアターキノのオーナである中島洋(よう)氏の言動を中心に、イベントの様子を振り返りたい。

30周年を迎えて

中島洋氏は、イベントの冒頭で「30年を振り返ってどのような心境か」と聞かれた際に、このようなことを言っていた。

「あっという間の30年と言えば全くのウソになる、100年くらいやった気分だ」と。映画館運営はルーティンワークとは違い、変化していくことがたくさんある。それらに対応しながらやっていると、1年前のことが10年前のことのように、30年前のことが100年前のことのように感じられるのだと中島氏は言った。

シアターキノが掲げている二つの多様性

イベントの中で、僕の印象に残ったのは、シアターキノが抱えてるポリシーとして、中島が「多様性」を掲げていた点だ。話を聞いていくにつれ、その「多様性」には二つの意味があるのだと知った。

第一に、「映画の多様性」である。それは、シアターキノが多様な映画を掬い上げていくという決意だった。

2021年度、札幌市で上映された映画の数は約650作品ほど、そのうち220本がシアターキノで上映されたのだという。シネマコンプレックスではない、単館のミニシアターが全体の約3分の1の作品を上映しているのだから、驚きだ。

興業的な要素や、配給会社との話し合いによっては上映されない作品もある、けれど「世界にはこれだけいろんな作品がある」ということを紹介したいのだと、中島氏は述べていた。

第二に、「反応の多様性」である。中島氏は、人々が同じ映画を見て、それぞれ三者三様の反応をすることが大切なんだと言っていた。

中島氏は、黒澤明の「映画館とは社会である」ということを引用し、自身の見解を述べる。

「え?なんでこんなところで笑うの?」「え?なんでここで泣くの?」という、反応の違いこそが面白い。みんなで同じ映画を見て、気持ちいい気分になろうということを映画館は志向しているのではない。それぞれ反応が違う、「それでも」みんなで見ることが大事なのだと中島氏は主張していた。

シアターキノの誕生のきっかけとなる、中島氏の原体験

「多様性」という軸をぶれずに掲げてきたからこそ、シアターキノは30年もの間市民に愛されるようになったのだろう。では、シアターキノが生まれたきっかけは何だったのだろう。そこには、中島氏の高校時代の原体験があった。

(シアターキノがどのように発展していったのか、ということについてはこの記事に詳しいものが書かれている)

高校三年生のころ、山岳部を辞めた中島氏は、2学期に親戚の紹介で映画館でアルバイトをすることになる。そこで出会ったのがATG(アートシアターズギルド)の映画であり、ゴダール映画であり、フェリーニ映画であった。「全然わけがわからなかった」と中島氏は、当時を振り返る。

また、中島氏は同時期に『若き日の読書』という本にも出会う。その読書の手引きを元に、梶井基次郎やソルツィーニンなどの文学作品に親しむようになる。「これも全然分からなかった」と中島氏は述べる。

しかし、中島氏は、わからないことを否定しない。むしろ分からないものはなぜわからないのだろうと考えることが面白いのだと気づく。面白そうな予告編を見て、やっぱり思った通りだった、素敵だったという需要の仕方は面白くないのだ。

わからないけれど感動する、わからないけど心が揺さぶられる。このような若者時代の体験を、伝えたいと思ったのだそう。

「大人のお節介」を続けていく

中島氏が若者であったころ、札幌には今のような豊潤な文化の土壌が「何もなかった」。中島氏の上の世代は札幌の不毛さを指摘するばかりであった。そんな中で、誰もやらないのなら自分が作るしかないという決意のもと、全くモデルがない中で、中島氏は札幌で文化の「場」の運営をすることに取り組んだ。

「駅裏八号倉庫」を経て、シアターキノの前身である「イメージガリレオ」、そして「シアターキノ」へ。

「場」づくりの原動力となるのは、大人のお節介なのだと中島氏はイベントの終盤で述べていた。若者時代に感じた、「わからない」作品を受容する面白さ、それを伝えるために、札幌の文化シーンにおける心地よい「場」を作るのだと、中島氏は述べていた。

シアターキノの30周年本

そんな中島氏の思いが綴られてもいるシアターキノの30周年記念本、『若き日の映画本』は、明日7月1日に発売される。41人の映画好きが、10代・20代の人に見て欲しい映画をそれぞれ紹介する本である。シアターキノで買えば、特製のポスターがついてくるらしい。

私が好きな評論家、宇野常寛も寄稿している。これは買うしかない。

シアターキノをさらに知るためのリンク集

theaterkino(シアターキノHP)

シアターキノ – Wikipedia

シアターキノが開館30周年 記念イベントやエッセイ集発行 (msn.com)

居場所をなくすな。札幌の街に文化を灯す、市民出資で生まれたミニシアター – イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」 (e-aidem.com)

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コメント

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