- この本はこんな人におすすめ
- Mr.childrenの歌詞を深く解釈したい人
- 哲学に興味はあるが、固い哲学書を読むのがめんどくさい人
曲を好きになる時、最初に歌詞に心を奪われて好きになるのか、メロディーを聞くのが心地よくて好きになるのかは、人によりけりである。僕は、高校まではメロディー先行であったが、大学生になってからは歌詞先行になった。
今は、延々と親世代(80~90年代)の音楽を聴いて、歌詞の良さを味わう人間になっている。精神性がおじさんになってしまったのかもしれない。
閑話休題。
この本、『ミスチルで哲学しよう』は、四人組バンドであるMr.childrenの「歌詞」から、哲学的な思考を広げていこうという内容のものである。著者は、実際に大学で政治思想史を教えている小林正嗣という人だ。
なぜ、「歌詞」から哲学するのか
ミスチルを語るうえで「歌詞」は外すことのできないキーワードだ。
「僕のした単純作業がこの世界を回り回ってまだ出会ったこともない人の笑い声を作っていく」(『彩り』)
「高ければ高い壁の方が登った時気持ちいいもんな」(『終わりなき旅』)
「あるがままの心で生きられぬ弱さを誰かのせいにして過ごしてる
知らぬ間に築いてた自分らしさの檻の中でもがいているなら 僕だってそうなんだ」(『名もなき詩』)
などなど、ミスチルの曲の中には、ファンの間で親しまれている名フレーズが多数存在する。
だから、ミスチルを語るうえで歌詞を取り上げるのは妥当である。しかし、なぜ「哲学する」必要があるのか?
なぜ、歌詞から「哲学する」のか
著者の小林は、その理由について、以下のような説話を挟んだ。
ドイツの哲学者、ハイデガーは自身の著作の中で、詩人のヘルダーリンという人物を挙げ、「自分の詩作に対して思索による理解を要求する詩人があるとすれば、それはまさにヘルダーリンである」と述べている。
「ヘルダーリンの詩作を理解するには、哲学的な側面でその作品を見る必要があると、ハイデガーは考えているのではないか」と小林は述べる。
つまり、感性的に創作された作品を、哲学的な理論によって読み解く必要性がここでは指摘されているのだ。それが、ミスチルを哲学する理由だ。
取り扱う曲について
この本の中で取り扱われる曲は8曲。『HANABI』『CENTER OF UNIVERSE』『掌』『タイムマシーンに乗って』『花-Memento-Mori-』『いつでも微笑みを』『進化論』『GIFT』というラインナップになっている。
『CENTER OF UNIVERSE』『タイムマシーンに乗って』『いつでも微笑みを』など、なかなかファンの間でも語られることのない曲が挙げられているのが面白い。この著者、ガチのファンだ。
それぞれの曲では別々のテーマが扱われるのだが、本全体では「世界とは何か?そこに存在する自分とは何か?」という一貫した問いが、著者から私たちに投げかけていく。
『HANABI』で世界の現れ方を、『CENTER OF UNIVERSE』で世界の解釈の仕方を、『掌』で自分と他者の違いを、『タイムマシーンに乗って』で「今ここ」に存在する意味を…というように、それぞれのテーマは違えど、全体としては「世界と実存」というテーマで一つの流れを作っているのだ。
ハイデガー、ヘーゲル、スペンサーなどの思想を参照しながら、最終的には『GIFT』の解釈へとたどり着く。この本を通読すると、『GIFT』という曲の歌詞と、コーラス部分がいっそう自分の身に染みるものとなる。
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